日本の大麻草研究の第一人者である佐藤均 昭和大学薬学部学教授、一般社団法人日本ヘンプ協会理事長が講演され、弊社が日本でCBD原料の供給を頂いているENDOCA社が出展するAsia International Hemp Expo & Forum 2023が11月22〜25日にバンコクで開催され、講演の拝聴と展示会視察を目的に訪問しました。
https://www.jetro.go.jp/j-messe/tradefair/detail/129118
主催者コメント
同展は、麻(ヘンプ)の専門展であり、ヘンプのメリットや持続可能性などの最新情報を得られるタイで唯一の国際イベント。ヘンプに関わる食品、飲料、医薬品、建材、スパ、ウェルネス、マーケティング、物流、栽培などの技術、サービス、ソリューションが一堂に会します。また、同展はバンコクのQSNCCで開催され、出展者数500社、来場者は12,000人のバイヤーが参加。参加者のために商談とネットワークづくりの実現を目指します。
設置されたブース
地下鉄の駅から会場へ直結
クウィーンシリキット国際会議場の内部
会場はクウィーンシリキット国際会議場。地下鉄の駅から直結する会場に近づくにつれカナビスの香りが漂う。理由はすぐにわかった。会場に入るとカナビスの鉢植えや苗が目に飛び込んでくる。展示ブースの半分は、カナビスの栽培インフラ、例えばLEDライト、栽培機器、培養土、温室などのメーカーブースである。タイでは、野菜やスイカ、穀物を栽培していた農家が、まとまって大規模大麻栽培に鞍替えしているらしく、その需要の取り込みを狙ったタイとアメリカのメーカーである。日本で見学したトチギシロ品種には花穂がなく香りはしなかった。会場に立ち込める香りは、バンコクに7,000箇所以上あると言われるディスペンサリーショップの香りと同一である。CBDに関わり始めて10年、しかし実際のカナビスの香りを嗅ぐのは初めてのことである。花穂の実物を見るのも今回が初めてだ。カナビスには申し訳ないが、写真で見る以上に花穂はグロテスクである。会場の正面には、バンコクでCBDの最大シェアーを持つDR.CBDがブースを構え、隣がENDOCAタイランドのブースである。共に医療用CBDをメインに配置し、医療用以外のCBD製品のTHC含有量は適法基準の0.2%以内となっている。
来場者は欧米人が40%、タイ人が40%、その他アジア系が20%というところか。出展しているブースは、カナビス栽培インフラ関係が30%、抽出機器関連が20%、メディカル製品関連が20%、嗜好用カナビス製品が10%、それらのパッケージメーカーが10%、その他10%というところか。日本からは、栃木県の野洲産のトチギシロの精麻を使って作ったお飾りを販売するブースと、カナビスの葉をカットする特殊ハサミのメーカーがブースを出展していた。
何百種類の苗の見本
全自動一環栽培ファクトリーの模型
循環型有機培養土
日本から唯一出展していたハサミメーカーのSABOTEN
タイで最大のCBDメーカー
ENDOCA社の展示商品
展示会を見る限り、この国は大麻を完全解禁したのか?と疑ってしまうほどの嗜好用製品が並べられている。もちろん、売ったり買ったり、触ることもできない。上述の通り、タイ国内には現在7,000とも8,000とも言われるディスペンサリーショップがあり、野放図に嗜好用大麻を提供している。その多くが無許可営業で、ショップと隣接した場所に喫煙ルームを設けていてもショップとは無関係という体裁を保っているのだとか。
タイ貢献党は、5月の総選挙で麻薬対策の強化を公約に掲げ連立第1党となった。セター党首兼首相は大麻について「使用目的の医療への限定を政府の方針にすることは連立を組む11党すべてで合意されている。薬物問題が広がっているからだ」と述べ、改めて娯楽目的での使用は認めない考えを示した。しかしながら、総選挙の前後で大麻の栽培や販売に関する規制はまったく実施されていない。規制上のこの空白によって、タイ各地に販売店が続々と立ち上がり、政府も予想していなかったような形で大麻産業が成長している。
地元紙バンコク・ポストはタイ商工会議所大学(UTCC)の最新の調査として、タイの大麻市場規模は2025年には約430億バーツ(約1,700億円)に達すると報じている。今後、タイ貢献党の政治公約に沿って、嗜好用大麻の販売、使用に何かしらの規制がかかる可能性が高い。しかし、大麻の非犯罪化(刑事罰ではなく罰金)を支持し、医療用大麻解禁の推進者であった前政権の副首相兼保健相が現内閣の内務相となり、嗜好用大麻の販売、使用をバンコク市外に限定し、バンコク市内での嗜好大麻の販売、使用は禁止する方向で調整しているとのことである。大麻が既にこの国の重要な「経済資源」となっているからだ。
タイでマリファナ(法律用語であり、植物を指す場合は使用しない)を吸っても大丈夫、この国では合法なのだから、と思っている人がいるとすれば、それは大きな誤解である。
旅行者がタイでマリファナを使用した場合、厳密にはT H Cが0.2%以上の嗜好用大麻を所持し、使用した場合には、日本の大麻取締法に基づいて帰国時に逮捕される可能性は0でないと判断する。
その理由を整理する。
①ポイント1 「大麻取締法24条の8」の意義
条文:第24条、第24条の2、第24条の4、第24条の6及び前条の罪は、刑法第2条の例に従う。
②ポイント2 第24条、第24条の2、第24条の4、第24条の6及び前条の罪とは何か。
・「大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出」する行為
・「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡す」行為
・「情を知って、第24条第1項又は第2項の罪に当たる行為に要する資金、土地、建物、艦船、航空機、車両、設備、機械、器具又は原材料(大麻草の種子を含む)を提供し、又は運搬」する行為
・「大麻の譲渡しと譲受けとの周旋」する行為
③ポイント3 「刑法第2条の例に従う」の意味
刑法第2条は、保護主義に基づくものであり、日本国や日本国民の法益を守るため一定の犯罪類型について犯人の国籍や犯罪地を問わずに刑法を適用することを宣言したものとされる。
④ポイント4 タイにおいて合法になった範囲
そもそも、タイが解禁したのは医療用大麻の使用であり、規定上では嗜好用大麻の使用は認められていない。T H Cの含有量は0.2%以下の場合のみ合法となる。
医療・研究目的の大麻使用に加えて、タイ政府は、大麻からの抽出物や特定の部位(葉、根、枝等)のうち、THC含有率が0.2%以下であるものについては麻薬のリストから除外し、タイ国内の登録生産者から調達されたものであれば、食品、飲料、化粧品、医薬品等に使用することができるとした。もっとも、麻薬のリストから除外されていない大麻の使用については引き続き禁止である。また医療用に家内利用する目的での大麻の家庭栽培を、FDAへの登録のみで行うことが認められている。
麻薬のリストから除外されていない大麻について、これを使用した場合には、1年以下の懲役もしくは20,000バーツ以下の罰金、またはその両方。服用する目的で所持していた場合には、2年以下の懲役もしくは40,000バーツ以下の罰金、またはその両方が科せられる。
大麻取締法24条の8では「第24条、第24条の2、第24条の4、第24条の6及び前条の罪は、刑法第2条の例に従う。」と規定されている。
刑法第2条は刑法を「日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する」と規定する。「次に掲げる罪」とは内乱や外患,通貨偽造や有価証券偽造,公文書偽造など,国家の根幹に対する犯罪行為の場合、日本人であるか外国人であるか、また犯罪地がどこであるかを問わず,当該犯罪を犯したすべての者に対して日本の刑法を適用するという規定である。当該犯罪が国家間に共通する法益を侵害する犯罪であり各国と協調してその処罰を確保するためであり、大麻の取り締まりについても、それは国家を超えた各国共通の利益を有するので、日本は相手国と協調して大麻の取り締まりに当たるという決意表明を意味する。このような刑法2条の精神性の中で、大麻取締法24条の8が規定している犯罪は,大麻を「みだりに」所持,栽培等をすることである。法令において「みだりに」とは違法性があることを示す言葉である故、大麻を違法に所持等する必要がある。そのため,日本国内において日本の法に反するのみならず,その行為が行われた国の法律にも違反していなければ処罰されないという解釈が成り立つことになる。さもなければカナダで合法に大麻を所持・使用したカナダ人が日本に旅行で訪れた際に大麻取締法違反で処罰されることになってしまうからだ。つまり、大麻を完全に合法化した国との関係では、大麻を禁止することについて両国の間で共通の利益が存在しなくなったと言えるわけで、つまり大麻が合法な国で大麻に関する行為が完結しているならば、それは「みだりに」行われた行為ではなく、そもそも大麻取締法には該当しないという解釈が成り立つと考えられている。
(もちろん異論、異説はあると思いますし、広義のコンプライアンス概念に反するという意見もあると思います。また、カナダならいくら吸っても日本の法律上何ら問題ないと言っているのでもありません。誤解なきようお願いします。)
しかし、タイはカナダとは事情が異なる。タイが解禁したのは医療用大麻の使用であり、嗜好用大麻は解禁していない。20歳未満への販売や、公共の場での吸引も禁止されている。また、T H Cの含有量は0.2%以下の場合のみが合法となるのだ。タイ公安組織が、観光客を自国の法律違反で逮捕することは大麻を解禁した経済目的に反するのでその可能性は低いと思われるが、例えば公共の場で大麻を使用した場合、タイの法律に基づき罰金を課される可能性は十分に想定される。また、使用の信憑性が確保され、それが反復的で社会に与える影響が大きいと合理的に判断された場合は、大麻取締法に基づき、その人が帰国時に任意の尿検査等を要請され、結果次第では逮捕される可能性は0とは言えないと判断する。
在タイ日本国大使館は在留邦人、観光客に以下の通り注意喚起している。
「タイでは大麻に関する規制緩和が進められておりますが、タイ在留邦人の皆様、また、出張・旅行等でタイを訪問される皆様におかれては、以下の点に十分ご注意ください。
1.タイでは、大麻に関する規制緩和が進められており、大麻を含む飲食物や化粧品等が広く流通しているほか、本年6月9日には、大麻が規制薬物のリストから除外され、家庭栽培が解禁されるなどしております。しかし、タイにおいても、解禁されたのは医療等を目的とする使用や栽培であり、引き続き娯楽目的での使用は認められておらず、公共の場で大麻を吸引することなども禁止されています。
2.日本では大麻取締法に基づき大麻の所持等が禁止されており、日本に大麻を持ち込もうとした場合等には同法による処罰の対象となります。また、国外において大麻をみだりに、栽培したり、所持したり、譲り受けたり、譲り渡したりした場合などに罰する規定があり、罪に問われる場合があります。」
また、タイ保健省医療大麻研究所は、外国人観光客にタイの大麻について知ってもらうため、英語のガイドライン「タイの大麻について観光客が知っておくべき10のこと(10 Things Tourists need to know about cannabis in Thailand)」を発表した。以下、「タイの大麻について観光客が知っておくべき10のこと」に掲載されているガイドラインを紹介する。
- 個人的な目的で大麻の種子や部位をタイから持ち出すこと、またはタイへ持ち込むことは許可されていません。
- 大麻の栽培は合法ですが、食品医薬品局(FDA)のモバイルアプリケーション「Plook Ganja」または政府のウェブサイトからの登録が必要です。
- 大麻の花蕾を研究、輸出、販売、商業目的の加工に使用する場合は、正式な許可が必要です。
- 20歳未満、妊婦、授乳中の女性は、医療専門家の監督下にある場合を除き、大麻を使用することができません。
- 2%以上のTHCを含むエキスや合成THCの所持は許可が必要です。
- 大麻を含む料理は、認可されたレストランで食べることができます。
- 認可された大麻健康食品は、特定のルートで入手可能です。
- 学校やショッピングモールを含む公共の場での大麻の喫煙は違法です。
- 大麻を含む食品や健康食品を摂取した後は、車の運転を避ける。
- 大麻を摂取することにより、健康に重大な悪影響がある方は、速やかに医師の診断を受け、治療を受けてください。