THCの残留限度値については、8月末に厚生労働省から提示された基準値(以下に詳細を記載)で最終決定されるというのが大方の見方となっている。
CBDを取り扱う関係者の多くは、提示された基準値の最低でも3倍、或いは30倍は無理でも、あわよくば10倍程度の基準値で収束することを期待していたようである。しかし、その目論見は見事に消え去った。これにより、海外からのCBDオイルの輸入は困難になることが予想され、経済的合理性を重視するなら撤退する業者が続出する可能性がある。一方で、不良品が根絶され、結果的に不法業者が排除されるのであれば、日本国内におけるCBDの健全な発展、医療用途への展開はむしろ促進されるのではないかと判断している。
以下、7月から8月末に至る厚生労働省提示資料の基準値に関する内容を検証する。
(1)7月時点での厚生労働省の資料
<現行>
成熟した茎及び種子のみ利用可能。
CBD製品はTHCが非検出でない限り大麻に該当する可能性があるものとして流通不可。
<改正後>
成熟した茎及び種子のみならず、CBD製品など、丁HCが残留限度値以下であれば、大麻草の花穂や葉も利用可能。
製品中の△9-THCの残留限度値(案)
オイル 10 mg/kg以下
飲料 0.10 mg/kg以下
その他の製品 l mg/kg以下
この提示に対して、5000件以上のパブリックコメントが寄せられたようである。その多くは、CBD原料(大半は粉末)がどこに帰属するか不明、オイルの基準値が厳しすぎる、検査を実施できる機関がない、大麻種子を使った従来の食品に新基準値を上回るTHCが含有される矛盾が生じる、サプリメントや錠剤は重量が小さいため基準値を拡大する必要がある、などであったとされている。
これらのパブリックコメントが吟味され、8月末に新たに以下の資料が厚生労働省より提示された。
(1)8月末の厚生労働省の資料
製品中THC残留限度値
大麻取締法に基づく部位による規制から、麻向法に基づく成分による規制となることに伴い、CBDなどの製品中にごく微量に残留する可能性があるTHCの残留限度値を設ける。(当該限度値以下であれば麻薬には非該当)。
当該限度値については、大麻規制検討小委員会の報告書で示された方向性(※)を踏まえて、海外の科学的知見や限度値を参考に検討し、以下の区分・基準値とすることとする。
※「CBD製品中のTHC残留限度値については、(中略)保健衛生上の観点から、THCが精神作用等を発現する量よりも一層の安全性を見込んだ上で、(中略)尿検査による大麻使用の立証に混乱を生じさせないことを勘案し、適切に設定すべきである。」
成熟した茎及び種子のみならず、CBD製品などTHCが残留限度値以下であれば、大麻草の花穂や葉も利用可能。
<製品中の▲9-THCの残留限度値>
油脂・粉末 10 mg/kg以下 10ppm
水溶液 0.10 mg/kg以下 0.1ppm
その他の製品 l mg/kg以下 1ppm
となった。この結果、CBD粉末原料の限度値は10ppmであることが明確化されたが、バーム、マッサージオイルに関しては、その他製品に含まれるというのが一般的解釈のようである。(口に入れないバーム、マッサージオイルが、口から摂取するCBDオイルより厳しい基準となることに多いに違和感があるのだが。。。)
ここからは手元にある2つの原料のCertificateから、計算上のTHC値を検討する。
原料1
THCの検出限界
LOD 0.001%でN/D
原料2
THCの検出限界
LOD 0.1408mg /g でN/D
2つの原料で各々CBD濃度0.1%、0.5%、1.0%のバームを作成するとする。
理論上のTHCの最大値は以下の通りとなる。
0.1% 0.5% 1.0%
原料1 0.01ppm 0.05ppm 0.1ppm
原料2 0.14ppm 0.75ppm 1.4ppm
原料1の精度(小数点以下の有効数字の桁数)でTHCの検出限界を証明しているケース(原料)が他にあるか、現時点で当社は把握できていない。(当社の知る限りこの原料のTHC検出限界の有効数字の桁数が最も多い。)一方で、原料2はこれまで日本に合法的に輸入されてきた一般的CBD粉末原料(アイソレート)のLOD値と言って差し支えないと思う。
現段階では、バームはその他製品に含まれると判断されているため、新基準値は1ppmである。計算上、原料2で作成したCBD濃度1%のバームは新基準の範囲に収まらなくなる。従って、この製品を12月12日以降も継続して販売するためには、製品を個別に検査して新基準値内であることを証明する以外に方法はない。しかし、このような検査が可能な機関は、日本国内では1社のみである。それほど、微細な量を検査できる装置と機関は限られている。それに加えて、経時的変化によるCBDのTHCへの転換の可能性を考慮すると、このような微細な数値基準ではいつ何時、基準値をオーバーするか合理的に推測することは不可能だ。つまり、発売時に基準をクリアーしていても、事後的に製品が新基準に抵触する可能性が排除できないということである。
当社は開発当初よりマイクロドーズを商品開発の根幹に据えていたこともあって、当社のバーム製品は理論上新基準値の範囲内にあるが、現在、新基準に則して検査可能な機関に検査を依頼している。