テルペンとカンナビノイドのアントラージュ効果
今回のメールニュースは、「テルペンとカンナビノイドのアントラージュ効果 試験管内と生体内での乖離理由」についてお送りいたします。「Entourage(アントラージュ)」はフランス語で「側近」、「取り巻き」などの意味があり、麻の含有成分に置き換えると、100種類以上存在するカンナビノイドを複数種同時に摂取すると、個々のカンナビノイドの効果が増幅され、相乗効果によってより高い効果を得られるとされる現象です。これをアントラージュ効果といいます。近年、カンナビノイドをテルペンと同時に摂取するとアントラージュ効果により、カンナビノイドの効能をより効率的に享受できると言われていますが、以下の論文を参考に、生体内でアントラージュ効果が得られるか否か、その実態を探っていきましょう。
■アントラージュ効果が起きることを示す論文
「アントラージュ効果」: 気分障害および不安障害の治療のためのテルペンとカンナビノイドの組み合わせ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31481004/
一方で、
■アントラージュ効果が起きないことを示す論文
アントラージュの不在:大麻に一般的に見られるテルペノイドは、ヒトCB1およびCB2受容体におけるΔ9-THCの機能活性を調節しない
https://www.liebertpub.com/doi/full/10.1089/can.2019.0016
【解説】上記2つの論文より、テルペンとカンナビノイドが共存することによるアントラージュ効果はin vitro(試験管内)では生じないことが分かり、in vivo(生体内)では生じることが分かりました。このようなin vitro – in vivo乖離の理由は、テルペンの作用がカンナビノイド受容体を介さない薬理学的上乗せ効果であるためと考えられます。つまり、テルペンは、カンナビノイド受容体を通して同一の作用点に働くわけではないけれど、テルペンが共存することで相乗効果(synergic effect)または相加効果(additive effect)が生じることがわかります。そもそもカンナビノイドのアントラージュ効果は、単独の成分(アイソレート)を摂取するよりも自然の状態に近い植物エキス(ブロードスペクトルあるいはフルスペクトル)を摂取した方が効果が高いと感じる、という経験的事象から発生した概念でした。しかし、2011年にEthan Russo博士は以下の論文において、カンナビノイドとテルペンの相乗効果が証明されれば、大麻由来の新しい治療薬の開発が可能になると述べ、アントラージュ効果の重要性が広く認識されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21749363/
さらに、以下の二つの論文では、薬理学的あるいは薬物動態学的な複数のメカニズムを介したカンナビノイドのアントラージュ効果が合理的に説明されています。具体的には、テルペン共存下でカンナビノイドの作用が増強されるのは主として薬物動態学的な効果であること、つまりテルペンがカンナビノイドの消化管吸収を促進したり、カンナビノイドの血液脳関門透過性を促進して中枢作用を増強したりすることで、カンナビノイドの作用が増強され得ることが明確になってきました。したがって、多成分を同時摂取することで生じるアントラージュ効果の少なくとも一部は、in vitro実験では検出できない薬物感相互作用の結果として説明できます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38257323/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37626819/
最後になりますが、以下の論文で述べられているように、今後CBDなどのカンナビノイドを、特定の疾患に対する新規医薬品として開発する際は、「アントラージュ効果」をうまく活用した薬効の最適化戦略も考慮するべきと言えます。